文化・芸術

2011年3月 1日 (火)

フェルメールの素描?

昨日の記事で取り上げた分子生物学者、福岡伸一さんが今日の朝日新聞文化欄に興味深い記事を載せていた。

福岡先生がフェルメール作品をこよなく愛しているとは知らなかった。オランダの画家、フェルメールの現存作品は三十数点しか知られておらず、世界の各地に分散している。福岡さんの夢は「世界の様々な場所に散らばる宝石のようなヨハネス・フェルメールの作品をすべてその場所にいって観ること」(朝日新聞 2011年3月1日文化欄)なのだそうだ。

このフェルメールと同じ1632年にオランダのデルフトに生まれたレーウェンフックという生物学者がいて、微生物や精子の発見者として生物学史に名を残している。福岡さんは、この二人が光学的な興味を共有していたのではないかと考えた。二人の交流を示す記録はないが、フェルメールの死後、その遺産管財人になったのはレーウェンフックだという。以下、福岡さんの記事を引用したい。

 レーウェンフックのごく初期の記録にはこう記されている。自分は絵が上手に描けない。だから顕微鏡のスケッチは専門の画家に頼んで描いてもらったと。私はこの記述に興味をもった。それは一体誰だろう。そしてそれはどんな絵だったのだろうかと。膨大なオリジナル手稿は英王立協会の書庫に今も眠っている。
 私は王立協会から特別の許可を受け、このほどその手稿を実地に調査する機会を得た。そして300年以上も前に描かれた顕微鏡観察のスケッチ画に衝撃を受けたのだった。
 昆虫の脚の鋭い爪先は、まるで石膏のデッサンのような筆致で、光と影の強いコントラストによって描きだされている。その硬さをじかに感じことさえできる。毛根のスケッチはやわらかな丸みを帯びている。いずれも、自然を分節化し、区画しようとする科学者の視線ではない。なめらかに変化する光のグラデーションをつなげようとする芸術家の目線がある。
 ここで意外なことに気づいた。レーウェンフックが王立協会に送った観察スケッチは1676年の半ば以降、急にそのタッチとトーンに変化が生じているのだ。絵は細かい線だけで描かれるようになる。初期のスケッチに見られたような陰影や強いコントラスト、連続する光の粒のグラデーションなどは完全に消え去ってしまうのである。
(朝日新聞 2011年3月1日文化欄)

この部分に続けて「単なる偶然の一致を指摘しておくにとどめる」として、フェルメールが1675年12月に43歳の若さでなくなったことを福岡さんは述べている。実に興味深い「仮説」だと思う。フェルメールがレーウェンフックの顕微鏡観察のスケッチを描く。なんとも魅力的な話である。

しかし、同記事とならべて掲載されている美術史専門家のコメントによると、「夢のある面白い仮説」だが、「フェルメールは油絵しかのこっていないので、素描を判断する基準がないうえ、描写対象も違いすぎて画風だけで論じるのは難しい」という。加えて当時すでに図鑑などで仕事をする挿絵画家が多数いたはず、とのこと。なるほど、そうなのか。

スケッチがフェルメールによるものだとしたら世紀の大発見となると思うのだが、福岡先生の「仮説」が実証されないか期待している。

(asahi.comの同記事はこちら

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2010年2月11日 (木)

最近の訃報に接して

先月の下旬から今月の初めにかけて、何人か気になる人が亡くなった。

まず『ライ麦畑でつかまえて』を代表作とするJ・D・サリンジャー。訃報に接してまず驚いたのは、まだサリンジャーが存命だったということである。すでに文学史上の名前のような気がしていたから、同時代を生きているという感覚を持っていなかった。

サリンジャーの作品はほとんど読んだ。『ナイン・ストーリーズ』は都会的なセンスにあふれた短編集で、いかにもニューヨークの作家という雰囲気がする佳作が多い。『フラニーとゾーイー』や『大工よ、屋根の梁を高く上げよ シーモ−序章−』はシーモア・グラースがいなくなってしまった後のグラース家の物語だが、不在ゆえに一層シーモア・グラースというたぐいまれな人物の姿が浮き彫りになる作品である。『大工よ、…シーモア−序章−』の中に、シーモアが作家になった弟のバディに残したメモがある。「一人の読者として、もしバディ・グラースが好むものを選べるとすれば、彼がどんな文章を一番読みたがっているかを自らに問うて見ることだ」という意味の文だったと思う。二十代の初めの頃に読んで忘れがたい印象を持った一文である。

サリンジャーはマスコミ嫌いで、世捨て人のように隠棲しているという不思議な作家だった。グラース家のシーモアのようにサリンジャー自身が現世的な名声と無縁の生活を望んでいたようである。アメリカでは単行本化されていない作品の翻訳もかつて出ていたと思うが、あれらはどうなったのだろう。『ハプワース16、一九二四』という作品を含む短編集を持っていたのだが、あるときやむを得ない事情で手放してしまった。今は入手できないのではないかと思うので少し後悔している。

二人目は浅川マキである。ある年代以上の方は名前を聞いてすぐに分かるのではないかと思うが、独特のブルースフィーリングを持っているシンガーだった。彼女のオリジナルではないものの『ぷかぷか』という曲が一番耳に残る。ブルース・シンガーと言ってしまっていいのかどうか分からない。純然たるブルースを歌っていたわけではないと思うからだ。だが、その歌の世界を何と表現するかと考えると「ブルース」という言葉以外に適切な形容詞が浮かんでこない。

二十年以上も前にNHK-FMで「日本のブルース」の特集を組んだことがある。スタジオライブを中心にした数夜連続の特別番組だった。上田正樹と永井隆の次の晩が浅川マキだったように思う。上田正樹は、South to Southから離れたばかりの頃だったのではないか。レイ・チャールズやオーティス・レディングのR&Bナンバーを上田正樹と永井隆が掛け合いで歌っていた次の晩に浅川マキという流れに違和感がなかったのだから、彼女の歌を「ブルース」と呼ぶことに問題はないのだろう。だが、どうしてもそれだけで終わりにできない独特の世界があったと思う。久々に懐かしい名前に接したと思ったが、それが訃報だというのは残念なことである。

最後は最近亡くなった作家の立松和平。決して熱心な読者ではないのだが、数年前空海についてラジオで連続講義しているのを帰宅する車の中で耳にした。十数回に渡る講演会の録音だったようだ。立松和平が空海を語る。不思議な感じがしたが、あの独特の口調とイントネーションで訥々としかし熱を込めて語られる空海像は面白かった。

空海についてその後何かの作品に結実したのかどうか分からない。しかし、あの雰囲気だと空海の生涯をテーマにした大作を書くつもりなのではないかと興味深く思っていた。実際どうなったのかよく分からないが、もし作品になっているのであれば立松和平の語る空海像を読んでみたい気がする。

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2009年4月 6日 (月)

肖像画の楽しみ

絵を見るのは楽しい。若い頃から画集や展覧会を見るのが好きだった。最近は展覧会や美術館に行く機会もほとんどなくなってしまったが、以前は時間を作って見に行ったこともある。

好きな画家は誰だろうと思うと、これが支離滅裂で印象派も好きだがダリも好きだしフェルメールもいいしロートレックもいいなあ。ただし、肖像画はルノワールに限る。

Renoir_partyRenoir21手近に画集をお持ちの方はぜひご覧になってほしい。持っていない方は図書館に行けば立派な美術全集がそろっているので、それをご覧になるとよいが、ルノワールの肖像画ほどほっとするものはない。技術がどうとかではなく、人物をこれほど魅力的に描いた画家は他にないのではないか。特に顔の表情である。ルノワールの描く肖像画は、どれも人物の顔の表情がこの上もなく魅力的だ。微笑しているものも多い。肖像画でなくても人物を描かせたらルノワールの描写は最高である。視線が交錯する「船上の昼食」(左)や「ムーラン・ド・ラ・ギャレット」(右)など多くの人物が画面にあふれんばかりに描かれた絵でも、人物の表情は魅力的で印象的だ。

同じ人物像でもロートレックになると画家の皮肉な視線が感じられ戯画化されたものになる。ルノワールの人物はあたたかみがあって、内側から輝いて見える。この輝きは何なのだろう。ルノワールが感じ取った人物の内面性なのか。それとも何か他のものなのか。見ているこちらも幸せな気分になるというのが不思議なところだ。

Micbox_renoir018

Renoir_chocquet Pierre_auguste_renoir_rep010

左から「イレーヌ・カエン・ダンベール」「ショッケ」「ジャンヌ・サマリー」の肖像。画像が小さいのでわかりにくいかもしれないが、子どもの肖像でも大人の肖像でも魅力のある作品になっている。中でも「イレーヌ・カエン・ダンベール」の透明感はすばらしい。子どもを描いたルノワールの作品はどれもいいのだけれど、この作品は別格の美しさがあるように思う。「ショッケ」と「ジャンヌ・サマリー」はどちらも微笑を浮かべているやわらかな表情に引き込まれる。どの肖像も見ているだけで至福の時間を過ごすことができる。

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