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2019年5月 7日 (火)

「をしく」(形容詞の連用形の用法)

長々と続けてきた「心状語」の紹介も今回が最終回である。初回と第十一回の冒頭で触れたように、岩波書店の新日本古典文学大系25『枕草子』に載る「枕草子心状語要覧」があまりにもすばらしいので、古文を学習する高校生でも活用できるよう、類似した心状語をまとめて引用紹介しようと考えた。

第十回まで続けたところで中断し、三年近くの空白ができてしまったが、ようやく全て紹介し終わるところまでこぎつけた。以前に書いたことのくり返しとなるのだが、できれば図書館などで岩波書店の新日本古典文学大系25『枕草子』を手に取って「枕草子心状語要覧」の全文に目を通されることを希望する。

特に国文科に進むことを考えている方(現実的にどれくらい存在するのか心もとないのではあるが)は、ぜひ熟読玩味し、平安時代の「心状語」の差異を知っておくことをお勧めしたい。

現代の私たちが平安時代の古文を読むことは、たとえて言えば外国語の文章を読むようなものである。だから、「心状語」を学ぶことで、微妙な感情の差異を見分けられるようになれば、作者の意図したかったことの把握も容易になるのではないかだろうか。大昔の国文科生でありながら、いまだに古文解釈が苦手な私が言うのもおかしいが、若い頃に「枕草子心状語要覧」のような解説に出会っていれば、もっと古文の世界に没入できただろうと思う。

ということで、今回は「をしく」を例として「形容詞の連用形の用法」について。

連用形は述語を連用修飾する用法が基本であるが、さらに次のような用法があるという。
①判断内容を示す連用形
②対等並列(いわゆる「並びの修飾」といわれるもの)
③先導批評(最初に評語を示し、その後に批評対象となる事実を言う)
④批評代入(程度を限定する連用修飾語の位置に評語が代入されるとき、批評代入の連用修飾語とみる)

今回の内容は文法的なものを中心としているので少しピンとこないかもしれないが、「枕草子心状語要覧」の解説を見てみよう。

<判断内容>
「をしく思ふ」のように、判断の内容を示す連用形で、「をしと思ふ」と言うのと同じ。広義の連用修飾の一つとは言えようが、判断動詞の前に立った時だけの用法であるのが特異。ただし判断動詞は「言ふ」「見る」「感ず」「覚ゆ」など多数ある上、判断動詞相当として使われる言い廻しは少くないから、実際の使用頻度は決して低くない。

<対等並列>
「をしく、あたらしき人」のように、後続する語句(この場合「あたらし」)と対等の関係で並べたてる時に使われる連用形。対等の関係を外せば、「をしき人、あたらしき人」となる所を、同じ対象(この場合「人」)に、同じ関係(この場合、連体修飾)で続く共通性を、いわば同類項の要約のように、一まとめにする表現。対等の関係だから、前項と後項とを入れ替えて、「あたらしく、をしき人」と言っても同じであるのが特色である。

<先導批評>
「をしく、えあはで帰りぬること」のように、後続する事実「えあはで帰りぬる」を、あらかじめ「をし」と批評しておいて、それに先導させる形で批評対象たる事実を言う表現法。これと同じ表現法が現代にないために、正当な理解をさまたげて来たが、「惜しいことに」「嬉しいことに」「珍しいことに」など今言うのと同じ表現法である。「をしくも」のように「も」を添えれば、「惜しくも、十票の差で落選した」のように、今でも使うことが稀でない。先導批評に用いられるのは、評語であり得る語(主として情意性形容詞)に限られるわけだが、評語たり得る語も少からずあり、また先導批評の使用は極めて活溌で、古代語において重い位置を占める。

<批評代入>
評語として使われる所の、例えば情意性形容詞が、連用形をとっていても、普通の連用修飾である場合もある。例えば「あさましう煤(すす)けたる几帳」などの場合である。もしこれが、几帳が煤けている事実を、「あさまし」と批評したのであれば先導批評だが、煤けていると言っても、それは程度の問題であることから、程度を限定する連用修飾語の位置に、評語が代入されることがあって、それだと見れば、批評代入の連用修飾である。「あさましきまで煤けたる几帳」の意と解し得る場合がこれである。一五四段の「うれしういひたり」は、発言内容に「うれし」という批評が代入されて、「うれしきことをいひたり」に等しい意を表わす場合で、これも連用修飾である。

(岩波書店、新日本古典文学大系25『枕草子』所載「枕草子心状語要覧」より)

以上で全項目の紹介は終了となる。類語辞典的に使ってもらうためには、語と語の相関関係を示す図や心状ごとにまとめたインデックスが必要だが、そこまでは手が回らないので、とりあえず、このような形での紹介しかできなかった。調べたい語がある時は、ブログトップにある検索窓に、形容詞の基本形で入れて調べてみてほしい。

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