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2015年10月11日 (日)

秋日読書雑感・2

昨日の記事で書いたように、松本健一の『「日の丸・君が代」の話』と『隠岐島コミューン伝説』をすでに図書館から借り出していたので、さっそく『「日の丸・君が代」の話』にとりかかっている。あと六十頁ほどで読了。予想していたように、「日本国総船印」としての「日の丸」の話や戊辰戦争での錦旗と日の丸の話も出てくる。

終盤の第四章「国旗と国歌はなぜ必要なのか」の第一節「国際法と日本の近代」に興味深いことが書いてある。まず、中国における伝統的な降伏の意思表示の方法について。国際法では白旗を掲げれば降伏の意思表示だが、三国志の時代の昔から中国では、敵軍が攻めてきてもう負けだと思ったら城内に敵が攻めこむ前に相手の旗を揚げるのだという。簡単に言えば「寝返り」であるが、そういう政治的駆け引きで相手を負かしていくのが中国の伝統的な戦い方なのだそうだ。確かに、双方とも武器の損耗を減らし死傷者もできるだけ出さずに済むわけで、現実的な方策である。

二つ目は「侵略」と「割譲」の違い。第一次大戦中、日本は日英同盟を結んでいたイギリスから要請されドイツの租借地である山東省の青島を攻略する。その結果日本は青島を手に入れるわけだが、これは「侵略」なのか「割譲」なのか。松本健一の解説を引こう。

これは、ある意味では、日本による中国の侵略ということになるのかもしれないが、それ以前にはドイツが中国から青島を割譲させる形で侵略していたわけで、それに代わって日本が中国を侵略したのだ、というふうにもいえるだろう。しかし、これもいうならば当時の国際法上の取り決めにしたがって戦争をした結果なのであり、その取り決めを侵犯していないかぎり、「割譲した」と中国がいうかぎり、それは侵略ではないのである。
(松本健一『「日の丸・君が代」の話』 PHP新書より)

つまり、実質はともかく国際法上の法的根拠があれば、それは「割譲」であり「侵略」ではないということだ。これに続く部分でもう少し詳しく例示される。

たとえば、歴史的なイメージからすると、香港はイギリスによって侵略された、とアジアの人々は思いがちである。だが、欧米列強が定めた国際法上でいうならば、中国(清)とイギリスは戦争をし、その結果中国が敗れて、講和条約によってイギリスに香港を割譲したのである。このように、国際法においては、条約にしたがって割譲したものは侵略ではない、ということになる。そうだとすれば、同じく日本が韓国を併合したのも、文化的かつ歴史的なイメージからすると侵略に見えるが、双方の力関係は別にして、双方の合意のもとに併合条約を結んだのだから、少なくとも国際法上は侵略ではない、ということになる。
( 前掲同書より )

武力を背景に力によって認めさせられた条約なわけだから、割譲させられた側から言えば、「心情的」に「侵略」以外の何ものでもないだろう。しかし、戦争に負けるというのは、そういう屈辱を受け入れなければならない立場に置かれるということであり、勝った側が賠償金や領土の割譲を要求することは当然に認められる権利である。そのために講和条約が結ばれる。

日韓併合は戦争の結果ではないが、併合された側からすれば「侵略」としか考えられないだろう。武力を背景に強要されたから、やむを得ず併合条約を結んだのだという心情も理解できないわけではない。しかし、国際法にもとる点はなく、国際法上は「侵略」とならない。身も蓋もない言い方をすれば、帝国主義支配とはそういうものであり、形の上で合法的に他国を植民地化していったのが、帝国主義の時代だということになるだろう。欧米列強がやっていたことを手本に日本も「学習」していったという、近代化の一過程である。

そういう点からすると、満州建国は「侵略」であると松本健一は説く。満州事変は日中間の条約によって満州を独立国としたものでもなく、日本が宗主国になるとか定めたものでもないからである。具体的に言えば、関東軍が政府の決定によらず独断で始めた戦争であり、国際法の取り決めにもとづく国家行為ではない。よって国際法破りであり、「侵略」である。そのように国際社会(国際連盟)から判定された。特に、当時の国際法で日本側の行為を「侵略」だとみなす根拠になったのは、国際連盟規約や「支那をめぐる九カ国条約」や「パリ不戦条約」などだという。「支那をめぐる九カ国条約」は、第一次大戦後に結ばれ日本を含めた欧米列強が中国を誰の領土にもせず互いに機会均等・門戸開放の「列強の利権の草刈り場」にしようという取り決め。「パリ不戦条約」は、日本国憲法の第九条のもとになったともいえるもので、国際紛争を解決する手段としての戦争の放棄を、列強が宣言したもの。日本も加盟し条約締結国になっていた。

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