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2013年7月31日 (水)

七月の末に

中学の地理で「国家の三要素」を学ぶ。領土と国民と、さてもう一つは何でしょう。という一問一答がよくある。答えは主権だ。

日本が途中から交渉に参加しているTPPには、ISD条項という項目があるという。企業が相手国の国内法や政府の規制等で不利益を被った場合に、その相手国政府を訴え損害賠償請求やら国内法の改変や規制撤廃が求められる。以前の記事でも触れたので、詳しくはこちら 。大雑把な言い方をすると、グローバル企業が国家の主権を越えてしまうということだろう。

たとえば、遺伝子組み換え食品は口にしたくないなあ、と思っている人がいるとする。遺伝子組み換え食品の表示を頼りに、買うか買わないかを判断する。それが当たり前の消費行動だろう。しかし、遺伝子組み換え食品を販売しているグローバル企業が、企業活動を阻害するものだとしてこれを提訴すれば、表示を撤廃しなければならなくなる。その結果、消費者には選択の自由が無くなってしまう。

そんな馬鹿なと思いつつも、これまでの実績から考えるとそのようになる可能性が極めて高い。アメリカのグローバル企業がNAFTA(北米自由貿易協定)に参加しているカナダとメキシコ政府を提訴した28件は、すべてグローバル企業側の勝訴。逆のケース、カナダとメキシコの企業がアメリカ政府を訴えた19件はすべて敗訴。まあ、提訴する先の「国際投資紛争解決センター」は、アメリカが影響力をもつ世界銀行の傘下にある機関だから、無理もないことだが。

BSEの全頭検査にしてもそうだ。日本が行っている全頭検査に合理性はないとされてしまえば、全頭検査していない牛肉が市場に出回ることになる。食品企業からすれば、全頭検査の手間とコストを掛けない方が利益率を上げられるわけで、そちらが望ましいにきまっている。

食品のこと一つを取っても、安心や安全を選択するための法律や規制が一企業の提訴によって撤廃されてしまう。それは、企業が国家の主権を越えてしまう時代に入ることを覚悟しなければならないということだ。国家が、国民に安心を与え安全を守ることができなくなる事態が、TPP交渉の終了とともに現実化していくだろう。

TPPの本質的な問題点はそこにある。農業分野の問題、米の自由化の問題は20項目以上ある交渉分野の一つに過ぎない。自民党が言う米の「聖域化」は無理だろう。すでに交渉は進展してしまっている。おそらく日本の主張は通らないだろう。

グローバル企業に国民国家が蚕食されていく。あるいは解体されていく、というべきか。これは日本に限った話ではない。グローバリズムによって国民国家はずっと、「勝ち目」のない戦いを強いられている。内田樹氏が再三述べているように、ライフスパンの短いグローバル企業にとって、国家百年の計などどうでもよく、国民の暮らしを守り格差を是正するような効率の悪いことには、まったく関心がないのである。そしてグローバリズムは不可避な流れでもある。逆行することは、どう考えても無理だろう。

国家の主権より企業の収益が先。なんともうっとうしい時代に入っていきそうだ。

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