« G・オーウェル的あるいは『1984年』的 | トップページ | 五月の読書・続き »

2013年5月21日 (火)

五月の読書

ゴールデンウィークが過ぎ体育祭が終わって、さて中間テストの準備に入りますかという最近まで時間だけはたっぷりあったので、いろいろと本を読む時間があった。今月はほとんど小説を読んでいない。堅めの本が多かったが、それぞれ興味深く読んだ。

1.『世界を不幸にしたグローバリズムの正体』ジョセフ・E・スティグリッツ、徳間書店、2002年
2.『ショック・ドクトリン』上・下、ナオミ・クライン、岩波書店、2011年
3.『戦後史の正体』孫崎享、創元社、2012年
4.『謎解きフェルメール』小林頼子・朽木ゆり子、新潮社、2003年
5.『ホームレス歌人のいた冬』三山喬、東海教育研究所、2011年

まず、スティグリッツの『世界を不幸にしたグローバリズムの正体』であるが、ノーベル賞受賞の経済学者で世界銀行のチーフエコノミストでもあった著者が、世銀時代に経験したIMF主導の途上国援助の問題点をえぐった一冊。

以前からIMFの「構造調整プログラム」は問題があると耳にしていたが、世界銀行の担当者として実際にIMFと徹底的にやりあった著者ならではの把握と認識が興味深かった。緊縮財政、民営化、市場の自由化という、IMFが途上国に要求する三点セットにどこかで見覚えはないだろうか。行政改革、郵政民営化、規制緩和の小泉・竹中時代とそっくりの話ではないか。

もちろん日本のように経済構造ができあがり、市場も成熟している国では影響は小さいかもしれないが(それでも「痛み」に耐えてもさっぱり暮らし向きはよくならず、むしろどんどん悪い方に向かっているが)、援助を必要としている途上国には壊滅的な打撃を与えてしまうケースがあることをこの本は示している。IMFの「構造調整プログラム」を適用せず、政府が積極的な役割をある段階まで果たした方が発展していけると判断される場合でも、IMFは頑なに一つの方法にこだわり続けた。

スティグリッツははっきりと示していないが、この背景にある思想に切り込んだのがナオミ・クラインの『ショック・ドクトリン』である。大惨事や大災害や経済危機に乗じた惨事便乗型資本主義として、著者が詳細に攻撃しているのは、ノーベル賞経済学者ミルトン・フリードマンを教組とするシカゴ学派の市場原理主義である。

南米のチリやアルゼンチンで起きたクーデターによって一番利益を上げたのは誰か。ソ連崩壊後の混乱やアジア経済危機に乗じて、「民営化」という名のもとに国家の財産を食い尽くしたのはどこか。9.11後のアメリカ社会でどの分野の産業が発展し、アフガニスタンからイラクへと続く「テロとの戦い」でそれらの産業がいかに収益を上げてきたか。著者はカナダ人だが、徹底的に調べ上げてデータを紹介しつつ解き明かしていく。

この『ショック・ドクトリン』のなかで、シカゴ学派の思想が繰り返しやり玉に挙がる。緊縮財政・民営化・市場の自由化の理論的支柱となっている市場原理主義の思想だ。政府は何もするな、市場に任せればいい、社会保障政策などする必要はない、学校も民営化すればいい。そういう論理で構造改革のなされた地域は軒並み格差が拡大した。社会の1割ほどの人たちだけがけた外れに裕福になり、大多数の人間は失業と拡大した貧困の中に投げ込まれている。公営だった学校が民営化された結果、学校へ通えなくなってしまった子どもの数も増大し、貧困からの脱却はますます困難な状況になっていく。

そういう中で、最大の利益を上げたのは多国籍企業である。さまざまな優遇措置を受け、しかもその国に税は納めず、その国が保有していた国の財産を「民営化」させることによって国外へ流出させるという手法が繰り返し重ねられてきたという。アメリカの産官学複合体による巧妙な手口ということになるのだろう。

若いころに経済学をきちんと学んでおけばよかった、とつくづく感じる一冊だった。

にほんブログ村 教育ブログ 塾・予備校教育へ 教育ブログ 塾・予備校教育

人気ブログランキングへ 人気ブログランキング(教育・学校)

|

« G・オーウェル的あるいは『1984年』的 | トップページ | 五月の読書・続き »

読書」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 五月の読書:

« G・オーウェル的あるいは『1984年』的 | トップページ | 五月の読書・続き »