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2013年1月 7日 (月)

桜庭一樹『伏(ふせ)』を読む

桜庭一樹さんの『伏』を暮れに読んだ。冬期講習が始まる少し前の時期である。準備に忙しかったので、記事にする時間がないまま過ぎてしまった。

文庫化されたものを読んだのだが、今回買ってきたのは息子の方である。先に読み始めたものの、別の作家の本を途中で読み始めて、桜庭さんの『伏』は読みかけで止まっていた。私の方は十二月の初頭に文庫化された『製鉄天使』を読み終えたところだったので、君が読まないのなら先に読ませてもらうよと息子から借り受けた。

滝沢馬琴の『南総里見八犬伝』を下敷きにしたこの作品は、江戸の文化・文政期を舞台にしているので、息子にはどうも読みにくい感じがするようだ。「なかなか読み進まないと思うよ」と私に言う。そのくせ続きが気になるようで、「途中の栞は動かさないでよ、絶対に」と釘をさす。

読み始めるとこれが面白い。『製鉄天使』は好みの分かれる作品だと思うが、これは極上のエンターテイメント作品である。物語のテンポもいいし、要所要所に緊迫感のある山場が配置され、江戸の街を背景に鬼ごっこのような追跡劇が繰り広げられる。これのどこが読み進まないのか、私にはさっぱり理解できない。あっという間に読み切ってしまった。

里見八犬伝の伏姫(ふせひめ)と八房(やつふさ)の子孫にあたる「伏」と呼ばれる犬人間が、江戸の人々の中に紛れて暮らしている。彼らは見たところ、他の人間と変わりがない。しかし、ある日突然凶悪な事件を引き起こし、大勢の人を殺害する。恐怖に駆られた江戸の街には、「伏」に賞金を懸けるという高札が出され、浪人者を中心に腕に覚えのある連中が「伏」狩りに乗り出す。

この「伏」狩りに、主人公の少女浜路(はまじ)と兄の道節(どうせつ)も乗り出す。少女とは言っても、山でマタギの祖父と暮らしてきたので、熊でも何でも恐れることなくしとめる優秀な猟師である。浜路の兄はぼうっとした浪人暮らしをしているが、いざという時に頼りになる剣の達人。猟師である浜路の獲物を嗅ぎつける鼻を武器に、二人は「伏」狩りの成果を上げていくというストーリー展開だ。

読みどころはいくつもある。特に面白かったのが、瓦版屋をしている滝沢冥土(滝沢馬琴の息子)が書いたという設定の「贋作・里見八犬伝」である。劇中劇のように、この部分だけ独立させても一冊に仕立て上がるような生彩を放っている。

それにしても、桜庭さんの作品を特徴づけるものの一つは、十代の少年少女に特有な幻のような時間とそのはかなさに対する愛惜ではないかと思うのだが、この作品でもそれが通奏低音になっている。この点に関してはいつか別記事でまとめてみたい。

昨年10月にアニメ映画化されたようだが、公式ページの作品紹介動画を見ると、主人公の浜路のイメージが少し違うなあと思ってしまった。ま、映画は映画と割り切った方がいいのかもしれない。

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