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2013年1月21日 (月)

うーむ、小林秀雄に牧野信一か…

今年のセンター試験の国語問題を見て、うーむと絶句してしまった。未だに小林秀雄の評論が現代文に出題されるとは。かつてわれわれ世代が受験生だった三十年以上も昔、小林秀雄は受験国語の現代文では定番中の定番だった。小林秀雄の評論問題だけを収録した問題集もあった。そして、その難解な内容には苦しめられた。

何が難解だったのか。評論と言うより随想であり、論理の積み重ねと言うより論理の飛躍がその文章の特徴だったからだ。一気に二段とばし三段とばしの説が提示され、どこからその説が出てきたのか目を白黒させながら行きつ戻りつするという読解は、正直なところ地獄だった。

小林秀雄の評論集というか随想集はいくつか読んだ。ただ読む分にはおもしろかった。論理の飛躍も、まあそういうものかと、こちらも読み飛ばして深く考えずに先に進むことができたからだが、現代文の問題となるとそうはいかない。高校生に現代文を指導していたときも、小林秀雄は鬼門であった。教えている側が確信を持っていないのだから、たぶんこんなことではないのかで終わってしまった。

最近現代文の問題で小林秀雄の問題を見かけなくなったので、やれやれと思っていたのだが、亡霊のように突如としてセンター試験で甦ってくるとは…。あなどりがたし小林秀雄、である。

ただし、文章の切れ味はさすがである。ネット上に公開されていた国語問題のpdfファイルを開きながら解いたので、最初のうちはだれの文章なのか分からないまま読み進んだ。三分の一くらい読んだところで、どうもこの論者はただ者ではないなと出典が気になった。で、スクロールしてみると、出たあ小林秀雄。どおりでという納得とともに、えっ未だにという疑問符が頭の上に浮かび、うーむもう少し別の選択はなかったのだろうかと考え込んでしまった。それとも、この問題の作成者もまた私と同様、受験生のころに小林秀雄に苦しめられたクチなのだろうか。昔の仇を今取ってやるみたいな出題かもしれない。

さて、第二問の小説は牧野信一である。これも、うーむである。一体この小説家の名前を知っている高校生がどれほどいるのだろう。文学史の授業で名前だけは聞いたことがあるという人もあるかもしれないが、おそらくほとんどの受験生にとって初めて目にする名前であろう。

私も牧野信一の小説は読んだことがない。が、名前だけは知っていた。それは坂口安吾の評論集に幾度か名前が出てきたからだ。「牧野さんの死」 「牧野さんの祭典によせて」 (いずれも青空文庫 で読めます)のように、牧野信一の自殺に触れて書かれた追悼文のような文章もあるし、安吾の「青春論」 の「四 再びわが青春」の一節に描かれた牧野信一の姿も印象深かった。

安吾によれば、牧野信一という人は人前で泥臭い自分をさらけ出すことを最も恐れたハイカラな人だったのに、神前や仏前を素通りできない人だったという。のたうち回っても生きていこうという安吾の強烈な生の肯定と対比して、先輩作家だった牧野信一の線の細い繊細な神経が現実との対峙に耐えきれなかったのだろうなと想像したりした。そのくせ、牧野信一の作品そのものは読まなかったので、それっきり忘れてしまっていたのだが、こういう形でその小説を読むことになるとは。

それにしても、小林秀雄といい牧野信一といい、「現代文」の出典としてどうなのだろう。つまり「現代」性はあるのだろうか。すでに半分古典みたいな扱いではないのかと思わないではいられない。少なくとも刀の鍔の話や家の制度が確固としてあった時代の話など、高校生にとっては石器時代の話のようなものではないだろうか。だから出題するのだよ、と言われてしまえばひと言もないが、もう少しアップトゥデートな出典にしてもらいたい。高2の息子など、ネットで小説の出典の話題を拾ってきてネタにしてケタケタと笑っているし…、困ったものである。

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コメント

はじめまして。
小林秀雄、牧野信一が出題されたことについて、
話題にされているところを検索してお邪魔しますm(__)m
ひたすら読書好き、小林秀雄が懐かしい世代です。

さて、最近のセンター試験の評論は哲学に偏りすぎて、
これからいったいどうなるんだろうと不安を感じていましたが、
小林秀雄とは!

正直、もう絶対出ないだろうと思っていました。
でも、考えてみると、今の高校生の文学に関する知識で、
いちばん弱いのがこの年代なのではないかと思います。
ミッシングリンクといってもいいのではないかと思います。

なので、これから先、福田恒存や吉本隆明も出してほしい、
という気がします。
そもそも論で行くと、そろそろ古文と現文という科目を作り直すべき時期なのではないかと思います。

社会などは現状に合わせてどんどん科目も変わっていますが、
国語ももしかすると、科目を再編したほうがいいのでは、
という気がしています。

牧野信一も驚きました。
私は好きで読んでいますが、
それは私の趣味が偏っているせいだと認識していました。
しかも、今回の出題作品は、代表作ではありません。

しかも小林秀雄と牧野信一は親交があり、そのうえ、
思想的にも近いものがあります。
この「思想」というものを後ろ盾にして、
小林秀雄と牧野信一が出題されたのだとしたら、
もしかするとという一抹の不安を感じます。
杞憂であってくれればいいですが。


【学び舎主人】
熱いコメントありがとうございます。

小林秀雄に牧野信一という出題は何となく時代錯誤なのでは、という気がして記事にしてみたのですが、論理展開をつかませたいのであれば、加藤周一とか丸山眞男とか他に選択肢があるのではないかと思います。

福田恒存とはまた懐かしい。久しく評論問題を見かけなくなりましたが、復活してもおもしろいかもしれませんね。

投稿: どくしょすき | 2013年1月26日 (土) 14時48分

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