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2012年9月 8日 (土)

『羊をめぐる冒険』を読む・2

三島由紀夫が割腹自殺を遂げた一九七〇年十一月、私はまだ小学六年生だった。テレビで報道された事件そのものの記憶はある。翌朝集団登校するとき、仲の良かった同級生と「昨日三島由紀夫が死んだね」と話したことを鮮明に覚えている。もちろん小学生だった私たちに事件そのものの持つ意味はよく分からなかったが、主義主張のために有名な作家が割腹自殺を遂げたという出来事は大きな衝撃だった。

この三島由紀夫のエピソードが第一章にあることの意味は、やはりよく分からない。全体の伏線と言えば伏線なのかもしれないが、それなら七〇年の秋に「僕」が見た夢の方が重要な伏線のように思う。

 何度も夜行列車の夢を見た。いつも同じ夢だった。煙草の煙と便所の匂いに人いきれでムッとした夜行列車だ。足の踏み場もないほど混みあっていて、シートには古い反吐がこびりついている。僕は我慢しきれずに席を立ち、どこかの駅に下りる。それは人家の灯りひとつ見えぬ荒涼とした土地だった。駅員の姿さえない。時計も時刻表も、なにもない---そんな夢だった。  (「村上春樹全作品2」p19)

「人家の灯りひとつ見えぬ荒涼とした土地」は、後に「僕」が訪れていくことになる北海道の「十二滝町」、いや町になる前の「十二滝村」のイメージと重なる。

第一章が一九七〇年の秋に触れるのは前二作『風の歌を聴け』『1973年のピンボール』へのブリッジなのだろうか。第二章以下を読み進むと明らかになるが、「僕」も「鼠」もジェイも変わらず登場する。翻訳事務所を共同経営する「僕」の友人も、「鼠」のガールフレンドも出てくる。

つまり第一作の『風の歌を聴け』の頃からすでに八年経っており、八年経てば大概の人や物事は変わってしまうものだという一般論みたいなところから物語は動き始める。どのように人びとが変わり街が変わったか。それを通してどのように世の中が変わったのかが示される。

しかし、当然のことながら、八年も経てば人や物事は変わってしまうという一般論で終わりではない。変わらないもの、変われないものもあるのであり、物語の中でそれらは大切に扱われている。

少し先走りすぎたような気もするが、読み飛ばされそうな第一章はやはり何か引っかかり続ける章である。

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