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2012年9月 9日 (日)

『羊をめぐる冒険』を読む・3

『1973年のピンボール』で、「僕」は大学時代の友人と翻訳事務所を経営している。仕事は順調で、女の子も一人雇っている。「僕」と一度食事に行き、寒くなってから「僕」が着始めたセーターの脇がほころびているのを繕ってくれた女の子だ。

『羊をめぐる冒険』の第二章は、別れた妻が残りの荷物を取りに来て、朝方に帰ってきた「僕」と言葉を交わす場面が中心となっている。この別れた妻が翻訳事務所でいっしょだった女の子だということは第三章まで読み進まないと分からない。

第三章で「僕」が新しいガールフレンド(耳専門の広告モデルもしている、特別な耳を持つ女の子)に自分のことを話している箇所がある。その中で

 会社で働いていた女の子と知りあって四年前に結婚して、二カ月前に離婚した理由はひとくちじゃ言えない。  (「村上春樹全作品2」p57)

この部分で、そうだったのかと第二章のやりとりがいくらかのみ込めた。この直後の続きが面白いので引用してみよう。

年寄りの雄猫を一匹飼っている。一日に四十本煙草を吸う。どうしてもやめられないんだ。スーツを三着とネクタイを六本、それに流行遅れのレコードを五百枚持っている。エラリー・クイーンの小説の犯人は全部覚えている。プルーストの『失われた時を求めて』も揃いで持っているけど、半分しか読んでない。夏はビールを飲んで、冬はウィスキーを飲む。  (「村上春樹全作品2」p57)

確か前二作の「僕」は、大学で生物学を専攻したことになっていたように思うが、友人と翻訳事務所を始めるくらいだから、ある程度本好きなのだろうと想像していたが、エラリー・クイーンの小説の犯人を全部覚えているところはともかく、プルーストの『失われた時を求めて』を揃いで持っていて半分しか読んでいないという箇所には思わず頬がゆるんでしまった。

誰が言った冗談か忘れてしまったが、「プルーストの『失われた時を求めて』は読み切ってしまってはいかんでしょ。あれは、どこまで読みましたか、と互いに確認し合うために存在している長編ですよ。」というものがあった。つまり、それほど長い小説だということ。もちろん『失われた時を求めて』を読了した人もたくさんいるだろうし、私もちょっと前まで今年か来年には『失われた時を求めて』を読破したいなと考えていた。本好きなら誰しも一度は試みて見ようと思いながら、なかなか読み終われない作品の一つではないだろうか。だから「半分しか読んでない」という「僕」のひと言は、「僕」という人物の持つ側面をうまく伝えているように思う。

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