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2012年8月13日 (月)

お盆休みの本棚から・桜庭一樹『赤朽葉家の伝説』

お盆休みといっても15日から教室が始まるので、ほんの一休みとしかならないが、今日と明日の二日間は授業がない。というわけで、まとめて本を読んでいる。

一気に読んでしまったのが、タイトルの『赤朽葉家の伝説』(創元推理文庫)である。いやあ、面白かった。久しぶりに小説の楽しさを味わった。桜庭一樹さんの小説を読むのは初めてである。息子がしばらく前から『GOSICK-ゴシック-』のシリーズを読み続けているので、名前だけは知っていた。息子が受けた模擬試験の現代文の問題に、たまたま桜庭さんの小説が出題され、「まさか桜庭一樹の小説が問題に出るとは思わなかったよ」と言っていたので、どれどれと問題に目を通してみた。それが『赤朽葉家の伝説』の一部であった。

一読してこれは面白そうだと思い、「この小説は持ってるのか」と聞くと、「本屋で見つけたんだけど、文庫で800円だからちょっと迷って買わなかった」という。よっしゃ、それならオレが買おう。

いやあ、これは本当に面白かった。鳥取県紅緑村という架空の村が舞台で、古い歴史を持つ旧家赤朽葉家の、祖母万葉(まんよう)・母毛毬(けまり)・娘瞳子(とうこ)三代に渡る一族の物語である。祖母万葉の時代は1953年から1975年、母毛毬の時代は1979年から1998年、そして娘瞳子の時代は2000年から未来と設定されている。

たたら製鉄から始まり、近代的な製鉄所へと発展した「赤朽葉製鉄」。この製鉄所を経営するのが旧家赤朽葉家である。紅緑村は日本海に面した港から山に向かって段々になって延びる家並みを持つ村で、「上の赤」と呼ばれる赤朽葉家を最上層に製鉄所で働く人びとがその階層に従って段々に居を占めている。最下層の港には「下の黒」と呼ばれる造船業を営む成金の黒菱家がおり、この造船所に働く人びとが港から山の方に向かって住んでいる。だから村の段々を貫く道には見えない境界線があり、上と下の人びとは互いに敵愾心を燃やしている。

第一部は祖母万葉の時代である。この万葉は、中国山地のどこかに住む「辺境の人」と呼ばれる「サンカ」の生まれなのだが、紅緑村に置いて行かれ製鉄所に勤める若夫婦に育てられる。未来視ができる能力を持ち、後に赤朽葉家に嫁いでからは「千里眼奥様」と人びとから呼ばれるようになる。

第二部は母毛毬の時代。毛毬はレディースの暴走族「製鉄天使(あいあんエンジェル)」のリーダーで、美貌だが喧嘩にめっぽう強く、ついに中国地方のレディースを実力制覇してしまう丙午(ひのえうま)生まれの女傑。しかし、中国地方制覇と同時にレディースを引退。しばらくして少女漫画家としてデビューし超売れっ子となり、十二年間週刊漫画誌連載を続ける。

第三部は娘瞳子の時代。一族の多くが亡くなり、赤朽葉家は時代の流れとともに少しずつ傾きかけている。

この三代に渡る物語が面白かったのは、背景となる時代が丹念に描き込まれていたからだと思う。1959年生まれの私は、第一部の祖母万葉の時代途中からリアルタイムで見知っている。懐かしさとともに、時代の変わり方を俯瞰しているような錯覚に見舞われた。つまり、この作品は日本の戦後現代史にもなっているのだ。時に少女漫画のような(特に第二部毛毬の時代はその感が強いが)軽いノリの展開もあるのだが、日本社会の変化と赤朽葉家の変容が重なり、ストーリーに奥行きを与えている。

とにかく久々に面白い小説を読んだ。多くの登場人物が出てくるが、個人的には祖母万葉の友人、「出目金」こと黒菱みどりというフラメンコばあさんが強烈な輪郭を持って印象に残る。この黒菱みどりを主人公にした作品を書いてもらいたいくらいである。

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