利益相反
元来、気分にムラのある人間なので、ときどき文章を書く意欲がまったく無くなるときがある。そういうときに無理に書こうとしても何も出てこないので最近は無理に書かなくなった。
東日本大震災と福島の原発震災以来、特に原発震災を巡る社会のしくみの不条理さが腹立たしく、連日のように関連する記事を書いてきた。しかし、最初に述べたように気分にムラのある私は書きたいだけ書いてしまうと、まるで凪ぎになったかのように気持ちが失せてしまい、次の風が来るまでじっと待っているしかなくなってしまう。
この一週間ほどそういうエアポケットみたいな精神状態だったが、台風15号が通り過ぎ秋の気配が濃くなり始めるとともに意欲も戻ってきた。
というわけで、標題の「利益相反」である。英語の"conflict of interest"の日本語訳になるのだそうだが、利害関係があるかどうかを明らかにした上で発言したり行動することに関係する用語だという。
たとえば、私は一介の塾屋にすぎないので東京電力からはもちろんどこからもお金をもらっていない。したがって原発推進記事を書いたとしても、あるいは逆に反原発記事でも利益相反はおこらない。これがもし電力会社から(あり得ないことだが)事業資金の援助を受けていて、その事実を明らかにしないまま原発推進記事を書いたとしたらどうだろう。何も法には触れないけれど、第三者が適正に判断できないという点で問題になる。つまり、この人は電力会社からお金を受け取っている人だから、その分を考慮に入れて発言を受け取る必要があるという判断を第三者が下せる状態でなければならないということだ。
本人にそのつもりがなくても、利益を受けている人間がその事実を明らかにしないで発言するのはフェアではない。これが利益相反の根底にある考え方で、国際的な学会などで発表するときには、この利益相反を明らかにする書面の提出を求められるという。
今日付の朝日新聞の一面に「原子力賠償紛争審の2委員 電力系研究所から報酬」の見出しがあったので、何だろうと思って読んでみると、文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会の委員2名が、電力業界から運営費の出ている研究所で報酬を受け取っていた事実が明らかになった、という記事であった。この審査会については第1回の会合からずっと注目して追いかけていたのだが、今頃になって利益相反が明らかにされるのはフェアではないなあと感じる。
委員の一人、野村氏は「日本エネルギー法研究所」の理事・所長に4月に就任して以来毎月20万円程度の固定給を受け取っている。もう一人の大塚委員は、委員就任前から研究部長の職にあり同じように毎月20万円の固定給を得ていたという。大塚氏は利益相反にあたると思われると困るので6月に研究部長を辞め、委員に就いた後の報酬は返上したようだ。この「エネ法研」は年間運営費のほとんどを、財団法人「電力中央研究所」からの研究委託に頼っており、「電力中央研究所」の事業費のほとんどを電力業界が拠出しているそうだ。特に三分の一弱を東京電力が負担している。
それにしても、である。原子力損害賠償紛争審査会には、福島県の放射線健康リスク管理アドバイザーで福島県立医科大副学長の山下俊一氏も委員として当初出席していた。この山下氏以外にも電力事業者と利害関係のある委員が入っているのは、公平性の観点から問題となるはずなのに、委員を選ぶ段階で利益相反を考慮していなかったとしか思われない。
ビデオニュース・ドットコムの神保哲生氏が、「電力会社から莫大な広告費をもらっていますと明らかにしてテレビ局がニュース報道するのであればフェアであるが、現実にはそのような利益相反を明らかにしているテレビ局はない」と述べていたことがある。
今後二人の審査会委員がどうするのか、またマスメディアはそれをどう報道するのか注目していきたい。
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