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2011年9月 3日 (土)

広河隆一『チェルノブイリ報告』再読

今から二十年前に書かれた、広河隆一氏の『チェルノブイリ報告』(岩波新書 1991年)を再読した。前回読んだときにも感じたことだが、チェルノブイリの昨日は、福島の、日本の明日になるのだろうなという暗い予感を振り払うことができなかった。

これから五年、十年という時間の中で、低線量被曝という形で進行する内部被曝により多くの甲状腺異常や甲状腺ガン、膀胱ガン、白血病が発症するのではないか。しかも年齢の低い層ほど数多く。チェルノブイリの子どもたちの姿は福島の、日本の子どもたちの姿に重なっていくのではないか。

チェルノブイリでも政府当局は大丈夫だと言い続け、後になって高レベルの汚染地域がいくつも見つかった。すでに事故後数年人びとが暮らしてから汚染の事実が明らかにされ、内部被曝が深刻な影響を引き起こした。

事故の原因にしても運転員の操作ミスということにされていたが、事故の当日運転員の緊急停止操作に過ちはなかった。当時の所長で後に有罪判決を受けて服役した人物が明確に証言している。チェルノブイリの原子炉は設計上のミスがあり、制御棒を完全に引き抜いた状態から緊急停止のために差し込むと出力上昇を引き起こすという事故がチェルノブイリ以前にも把握されていたという。チェルノブイリの事故後、制御棒は完全に引き抜いた状態にならないよう長い物に変更されたそうである。

しかし、そういう事実も汚染のレベルについても当局は隠蔽し続けた。原子力に関する隠蔽体質はどこも同じだとつくづく感じる。肝心な情報が知らされないままだから、ニュースに出なくなった事故について人びとは忘れてしまう。何事もなかったかのように、呑気に日々を送ることも可能になる。

低線量被曝が遺伝子を傷つけそれがガンを引き起こすという、ゲノム解析に基づく知見が東大アイソトープ研究所所長の児玉龍彦氏によって紹介されている。細胞分裂の盛んな乳幼児、胎児ほど影響を受けやすくなる。小学生や中学生、高校生のような成長期にある子どもたちも同様だろう。

少しでも早く、食品の放射線量検査と詳細な汚染地図の作成と汚染された土地の除染を実行してほしいと思う。何も大事な情報が知らされないまま、ある日突然「実は食品の汚染が相当進んでいました」とか、「実は福島から100km以上離れたこの地でも放射線量の高いホットスポットが点在していることが分かりました」とか切り出されるのではないかと最悪の想像をしてしまう。

レベル7という事故評価尺度を受けた地に私たちは生きている。黙示録の世界に住んでいるようなものなのに、事故のことを忘れてしまえるのはなぜだろう。厳しい現実に向き合いたくないという逃避願望だろうか。それとも本当のことを知ることで絶望したくないからだろうか。

けれども、前を向いて進んでいくために、私たちは今置かれている状態を正しく把握する必要がある。現状を直視することからしか解決への見通しはつかないし、努力も始まらない。

広河隆一氏の『チェルノブイリ報告』に示された数々の事例が、これから数年後の日本のすがたに重ならないことを祈るばかりだ。

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