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2010年8月24日 (火)

落語の中の犬と猫・その5

延々と続けてきた犬猫話もそろそろ締めにしようと思う。落語の中には犬が主役級になる噺がほとんどないと書いたが、犬の生態抜きには成り立たないような噺を忘れていた。「元犬(もといぬ)」という噺である。

五代目古今亭志ん生師匠が演じたものを聴いたことがある。ごく短い噺で、肩の凝らない気楽な噺だといえる。

浅草の八幡様の境内に住みついた野良犬のシロが、八幡様に人間の姿になれますようにと願を掛け、本当に人間の姿になってしまう。姿形は人間だし、人間の言葉も使えるのだが、意識は犬のままである。猫を見ると吠えたくなるし、柱を見るとオシッコをかけたくなる。

せっかく人間になれたのだから人間として生活してみようと考えたシロは、仕事を探そうと口入れ屋、つまり職業紹介所の主に声をかける。犬の頃の意識のままに行動するシロを見て、お前さん、どうも変わった人だねえ、とあきれながら「そうだ、お前さんみたいな変わった人間がいたら寄越しておくれと頼まれていたところがある」と口入れ屋はある奉公先を思い出す。

変わった奉公人が来るのを待っていたのは、あるご隠居。ありきたりの奉公人ではつまらないという変わり者である。他に下女が一人いるだけだから、仲良くやっておくれとご隠居は声をかける。

ここからこのご隠居とシロのトンチンカンなやり取りとなる。お前、生まれはどこだ。浅草の八幡様の裏です。あの辺りはあたしの家作がある所だなあ、裏のどの辺りだ。八百屋の先です。八百屋の先ったって、あとは掃き溜めじゃねえか。ええ、その掃き溜めで生まれたんです。

父親は多すぎて誰だか分からないし、母親は毛並みのいいのが現れるとそいつにくっついていなくなってしまったし…、とシロは身の上を語る。そうか親も兄弟もいないわけだなと聞いていたご隠居は、下女が出かけているので、自分がお茶を入れてやろうと言う。シロに向かって「焙炉(ほいろ)だよ」と命じるが、シロは「吠えろ」と言われたのだと思い、ワンワンと吠え続けるという噺である。

五代目古今亭志ん生師匠は、「犬の災難」もそうだし、「品川心中」で貸本屋の金造が犬に追いかけられるシーンでもそうだが、何とも言えずおかしみのある描写をする。

猫にくらべると圧倒的に脇役であるが、犬もこうして主役を演じる噺がちゃんとあった。江戸の名物の一つに「火事」などとともに「犬の糞」が入っているらしい。それほど江戸には野良犬が多かったのであろう。犬にとっての食糧事情がよかったのかもしれない。

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