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2010年7月15日 (木)

井戸

村上春樹の小説でしばしば重要な役割を果たすものに「井戸」がある。代表的な例は『ねじまき鳥クロニクル』だと思うが、失踪した妻を捜しに「井戸」の底に降りていく。

いったい「井戸」は何の比喩になっているのだろうかと気になっていた。いろいろな解説を目にしたが、すっと腑に落ちるものがなかった。偶然のことだが、まったく村上春樹と関係のないところで「井戸」に関する説明を読み、あ、もしかしてこれかと思ったものがある。

参院選投票日の朝刊で、筒井康隆が連載している読書遍歴の記事を読んだのだが、その中でディケンズの『荒涼館』という長編小説がおもしろかったと述べられていた。大江健三郎に勧められて読んだらしく、筑摩世界文学大系に収録されているという。ディケンズといえば『大いなる遺産』や『デヴィッド・コパーフィールド』あるいは『二都物語』などがよく知られている作品で、『荒涼館』という作品は聞いたことがなかった。

さっそく水沢の図書館に行って借りてきて読み始めた。頁をめくると、うわっ、三段組だ。これで五百頁以上あるということは、読み切るのに何日かかるだろうか。これ一冊しか借りなくてよかったとつくづく思う。冒頭で延々とロンドンの大法官裁判所の描写が続く。面白そうな人物がちょっとずつ点描されていくが、これが後の伏線になるのかそれともただの背景で終わってしまうのかまだ分からない。なんだか「ハリー・ポッター」シリーズの映画の冒頭でも見ているような気分になる。

その冒頭部分のところに「しかし、この井戸の底に「真理」を探してもむだであろう」という一節があり、割り注が付いている。それによると

「真理は井戸の底にある」という、しばしば使われる英語の引用句は古代ギリシアの哲学者デモクリトスの『断片』117の「われわれはなにも知らない。真理は深いところにあるのだから」に基づいている」

とある。ああ、そうなのか。「真理は井戸の底にある Truth lies at the bottom of a well.」という引用句が英語にあるのか。それで村上春樹が「井戸」を持ち出してくるわけだ。井戸の底に真理か、まったく思いつきもしなかった。黄泉路への入口なのかもしれないなと単純に考えていたのだが、どうも違うようだ。

『中国行きのスロウ・ボート』という短編集に「ニューヨーク炭坑の悲劇」というタイトルの小説が入っている。ビージーズの同名曲から一部が引用され冒頭に載っている。村上春樹の作品の中には、こういうふうに地下へ、地中の深いところへと向かう意識が見られるものがいくつかある。これも、もしかすると「真理は井戸の…」風の感触があるのかもしれない。

もっとも映画『リング』の貞子のように、「井戸」に潜んでいるのは「真理」だけとは限らず、無気味なものである可能性もあるのだが。

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コメント

お久しぶりです。
お元気ですか?
蒔田絵都です(^○^)

久々に先生のブログにきてみました!

教室の写真、とてもなつかしくなりますね(゜-Å)


最近、やっと高校生活に慣れてきましたー
部活は、ラグビー部のマネやってます。

いつか、教室に突撃訪問したいと思います!
そのときは勉強教えてくださいねー笑

それでは。
またきます!


【学び舎主人】
ひさしぶり!!元気そうでなによりです。
そうか、ラグビー部のマネージャーをやってるのか。ちょっと意外。

教室はヒマですので(笑;)遊びに来て下さい。

投稿: 元生徒 | 2010年7月15日 (木) 19時27分

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