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2010年3月 1日 (月)

掛取万歳

「古典の底力・その18」 で井原西鶴の『世間胸算用』を取り上げたときに、「掛取万歳」という落語に似たような掛取撃退法の噺があると書いたが、その続きである。

六代目三遊亭圓生さんが演じたものしか聞いたことがないので、それをもとにした内容になるが、後述するようにこれは圓生師匠以外には演じることが出来ないのではないかと思うほど難しい演目である。

噺の導入部は「掛け買い」の代金が払えないからどうやって掛取(借金取り)を追い返そうかという、ある夫婦の会話である。そういえば去年の大晦日はお前さんの思いつきであたしが恥をかいた、とおカミさんがブツブツ言う。

前の年の大晦日、亭主は棺桶の中に入って掛取が来るのを待っている。早桶といって菜漬けの樽みたいな丸い棺に仏様を座らせるのが江戸時代の葬儀である。もちろんこの話の場合、亭主は死んでなぞいないわけだが、掛取を撃退するための手段である。

たいがいの掛取がお気の毒に、と帰っていったあとに大家が訪ねてくる。見ると早桶があるのでびっくりする。「ずいぶんと急なことでお前さんも困っているだろう。いくらか置いていくから、弔いの足しにしなさい」と親切な大家さん。元日になれば生きていることがバレるので、おカミさんは受け取れない。受け取っておきなさい、いやお気持ちだけでと押し問答をしていると早桶の中から亭主が「せっかくだからもらっておけ」と手を伸ばす。大家は腰を抜かさんばかりに驚いて外へ飛び出していく。とまあ、こんなふうにやり過ごしたのが去年の暮れのこと。

今年はなんとかなるのかいとおカミさんが訊ねても、亭主は算段があると言ってあわてない。掛取の好きなものを使って追っ払うから大丈夫だという。

さっそく大家が家賃の催促にやってくる。おカミさんに大家の好きなものを訊ねると「狂歌」だという。そこでさっそく亭主は狂歌を即席に詠んで家賃の払いを断ろうとする。最初は疑っていた大家も亭主が詠む狂歌に感心し、家賃は春まで待ってやろうということになる。以下に示したものは亭主が詠んだ狂歌の一つ。

   貧乏をすれど この屋に 風情あり
            質の流れに 借金の山

これを皮切りに、喧嘩の好きな魚屋の金さんには喧嘩を吹っかけ、大坂屋の旦那が義太夫好きと聞くと義太夫を語って借金の払いを待ってもらう。その次に来たのは芝居好きな酒屋の番頭。これも芝居仕立てにし、うかうかと乗ってしまった番頭を煙に巻いてしまう。最後にやってくるのが三河屋。三河屋が好きなものは何だ、と亭主が訊ねると三河万歳だという。お安い御用だとばかり亭主は三河万歳を唄い、首尾よく追い返し算段通り歳を越してしまうという噺である。

この噺は、義太夫を語り、歌舞伎の芝居の科白を真似し、最後に三河万歳をひとくさりやらないとサゲにならないので、それぞれの芸を一通り演じられないと演目にかかげることが出来ない。六代目三遊亭圓生師匠は芸達者な人だし、子ども義太夫語りだったのだから義太夫は本格的だ。芝居の科白廻しもうまいし、三河万歳もみごとなものだ。これだけの芸を一つの噺の中に盛り込んで語ることが出来る噺家はそうそういない。現在の落語家の中にこの噺が出来る人がいるのかどうか。貴重な噺の一つだと思うので、機会があれば一聴をお勧めする。

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