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2010年1月29日 (金)

石川淳雑感・その2

評論集である『文學大概』を読んでから石川淳の小説を手に取るまでは、しばらくの期間があった。東京の私立大学を受験し、小田急線沿線の経堂で本屋さんに入ったときに新潮文庫の『紫苑物語』を買った。

『紫苑物語』には短めの小説が三つ入っていた。表題の「紫苑物語」。そして「鷹」と「普賢」。「紫苑物語」が平安時代を背景とした物語で、「鷹」が時代設定不明なというかどこにも属さないような時間の中で進む話になっており、最後の「普賢」が戦後の間もなくのころに設定されている。

この三つの小説が収められた文庫本を小田急線の電車に揺られながら少しずつ少しずつ読んだことを覚えている。初めて訪れた東京という街での受験だった。二つの大学の入学試験が終わり帰る列車の中でも読み続けた。

「紫苑物語」という表題の小説が鮮烈だった。それまで読んだことのあるどんな小説にも似ていなかった。感傷のかけらもないドライなタッチの小説であり、水で割らないストレートのウィスキーみたいに飲み込もうとすると喉がじりじりと焼けるような作品だった。そこに流れているエネルギーの強烈さにクラクラとめまいがするような感触を味わった。

「鷹」も不思議な感触がある作品だ。喫煙するようになってからこの小説を読むとむやみに両切りのピースが吸いたくなったものだ。ピースの深い香りとニコチンの多い煙をたっぷり吸い込みながら読んだことが何度もあった。もうもうと狭い部屋に立ちこめる紫煙とともにめくった頁の感触を思い出す。煙草と縁が遠くなってからしばらく経つが、この小説を読むと今でもピースの香りが鼻先をかすめるような錯覚を味わう。

この『紫苑物語』の次に読んだのは何だったろうか。大学に入ってからは手当たり次第に石川淳の小説を読み始めたので、順番も何もよく覚えていない。たぶん文芸誌「すばる」に連載されていた『狂風記』が単行本になったものや図書館にあった石川淳全集などを中心に読んでいたのだろう。文庫になっているものは気軽に買えたので、あらかた買い入れて読んでいったはずだ。

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