江戸的スローライフのすすめ・その17
寒くなると聴きたくなる落語がいくつかある。代表格は「二番煎じ」だろうか。
大火に見舞われることの多かった江戸ならではの噺だが、火の用心に回る町内の檀那衆が番小屋にもどって暖をとりながら一杯やる場面が印象に残る。
寒風の吹く中、「火の用心、さっしゃりやしょう」と拍子木を打ったり、金棒を引いたりしながら町内を巡回して歩く。知恵の回る月番さんが、全員で一度に出るのではなく一の組二の組と二つのグループで交代に巡回することを提案する。「では、言い出したアタクシが一の組で回りますので、二の組さんはその後お願いします」と一の組の面々がまず出発する。
この一の組の檀那衆がやりとりする会話が笑える。三代目古今亭志ん朝さんが演じた「二番煎じ」では、みんな寒いので懐手したまま歩き、拍子木も金棒の音もよく聞こえない。月番さんが「いけませんよ、そんなことじゃ。それにどなたか『火の用心』の声を張り上げていただかないと」、と順に「火の用心、さっしゃりやしょう」の掛け声を上げていくが、謡の先生はどうやっても謡曲のような調子になってしまうし、長唄が得意な檀那は「どこでだれが聞いているか分からないから、いけませんよ」と言いながらも、自慢ののどを披露する。
月番さんがふと思い出して「そういえば若い頃火の回りをやってたと聞きましたが」と辰っつあんに促す。若い頃、吉原のかしらの家に世話になっていたときに金棒を引いてよく夜回りをやったもんでさあ。そう言いながら慣れた調子で「火の用心、さっしゃりやしょう」と声を上げる。さすが馴れた人の「火の用心」はちがうもんだ、とみなが感心しながら番小屋へと戻ってくる。
二の組が巡回に出ると、謡の先生が「出掛けに娘が、おとっつあん寒いからこれをと持たせてくれました」とお酒の入った徳利を月番に渡す。「何を考えているんですか、アナタ。ここは火の番小屋ですよ。こんな所で酒なんか呑んでいていいと思っているんですか。第一アタクシたちがそういうことを言い出したときに止めるのがアナタの役目じゃありませんか。それが、何です。…辰っつあん、そこの土瓶をあけて。で、それにこの酒を入れて火にかけて…」「するってえと、どうなりますか?」「どうなりますかって、徳利から出るお酒じゃあマズイだろうけど、土瓶から出る煎じ薬ならいいじゃないですか、お役人が見回りに来ても」「なるほどね」
というわけで、実は月番さんも寒かろうとやはり酒を持参していた。中にはみなさんお酒を持ってくるだろうから、それじゃ猪鍋(ししなべ)がよかろうと猪肉と葱とみそと鍋を持参してきた者もいる。いやあ、毎晩こんなふうに猪鍋でもつつきながらみなさんと一杯やれるというのは結構なことですなあ、とかなんとか言いながら和気あいあいと小宴会が始まる。
しばらくして番小屋にお役人が見回りに来てひと騒動となるのだが、実は…。タイトルの「二番煎じ」にひっかけたサゲがおもしろい噺である。グツグツと煮えてきた猪鍋を一箸ずつ回して食べる場面など、何度聞いてもうまそうだなあと思ってしまう。葱の芯の熱いところがぴゅっと口の中に飛び込んで、はふはふはふなんてところはたまりません。寒い季節にピッタリの一席である。
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