時事ネタも面白いのは、さすが
本好き人間にとって、一番の頼りになるのは的確な「眼」を持った書評家の存在だ。それぞれお気に入りの書評家をお持ちだと思うが、私が無条件に手を伸ばすのは米原万里さんと斎藤美奈子さんの書評だ。米原さんは惜しいことに亡くなられてしまったが。
それにしても二人とも女性書評家である。なぜ、女性書評家なのか。いや設問の立て方が悪かった。なぜこの二人なのか。たまたま二人とも女性書評家なので最初のような問いかけになってしまったが、別に女性だから読んでいるわけではない。その書評が的確で、本質的なものをこちらへ取り出して見せてくれる手際が小気味よいから読んでいるのだ。
で、斎藤美奈子姐さんである。ときどき朝日新聞の学芸欄で小説時評を載せているが、切れ味抜群の時評である。寝ぼけた目がいっぺんに覚める。外側に見える事象や表層の奇矯さに惑わされることなく、斎藤姐さんは的確にその奥にあるものを明るみに出す。優秀な外科医が患部をスパッと切り取る手際を見ているようだ。
この斎藤姐さんが、書評ではなく時事ネタを取り上げた時評がタイトルもずばり『たまには、時事ネタ』(中央公論社、2007年)である。「婦人公論」の連載コラム「女のニュース」をまとめたもので、略称は『たまじじ』なのだそうだ。なんだか猫のタマを呼んでいる爺さんみたいな略称だが、この時評集が面白い。
2001年5月から2006年12月分を加筆修正して収録した、と「あとがき」にある。21世紀の最初の10年のうち、半分ちょっとの期間に日本や世界で起きた出来事をその時々のマスコミ動向とともにズバリと評している。そうなんだよな、21世紀に生きているんだよな、我々は。9.11同時多発テロ。ブッシュ政権と小泉政権。外務省を巡る田中眞紀子、鈴木宗男問題。イラク戦争。安倍政権。アテネ五輪。JR列車脱線事故。テポドン発射。こうして項目だけ並べてみても、この期間に日本が大きな曲がり角を曲がってしまったんだなとぼんやり思う。
斎藤さんの時評は、ときに日和見的なマスコミの風潮を一刀両断し、自主規制したがる日本人の心性をみて、きっと戦争に至る過程の日本もこうだったんだろうと言う。自粛モードのときに火中の栗を拾う「非国民」の道を選ぶのは、想像以上に勇気がいる。そう述べて、勇気さえあればコラムは成立する、というわけでもないところが難しいのである、と時評の立っているポイントを冷静に振り返る。
この辺が斎藤姐さんの評論の頼りになるところである。決して一方に熱くなってしまわない。クールに全体を見通して、本質を突く。書評集ではなくてもすぐれた書き手の手になると面白い本になるという見本のような一冊だと思う。
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