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2009年6月21日 (日)

読書メモ・6月

1. 「知られざる日本人 ---南北アメリカ編」、太田宏人、オークラ出版、2007年
2. 「人を見抜く技術」、桜井章一、講談社+アルファ文庫、2009年
3. 「優劣のかなたに」、苅谷夏子、筑摩書房、2007年

1の「知られざる日本人」は「とよ爺のつぶやき」 のとよ爺先生が、浅野七之助のことを紹介したブログの中で知った本。浅野七之助は、原敬の書生をつとめた後アメリカへ渡った岩手の先人である。在米ジャーナリストとして新聞社の通信員を勤めるかたわら、戦後の日本に送られたララ物資を通じて学校給食が始まる基を作った人でもある(ララとは「アジア救済連盟」の頭文字をとったもの)。浅野七之助の功績についてはとよ爺先生のブログ記事「学校給食の産みの親:浅野七之助」 に詳しく載っているので、そちらをご覧いただきたい。

岩手に住んでいながら、これまでずっと知らずにいたというのも恥ずかしい話である。戦後の学校給食の生みの親ともいうべき人物が、郷土の先人であったとは。

この本には浅野七之助だけでなく、南米やアラスカに生きた日本人たちの生きた姿が描かれている。遠く異郷に没することになった人々の姿は、さまざまなことを考えさせる。どれもみな濃密な時間がそこには存在していた。日本で平々凡々と暮らしている現代の我々からは想像もつかないような苦労を、移民一世の方々は味わったのであろうと思われる。人の生の営みのたくましさと悲しさの両者をしみじみと思う本である。

2の「人を見抜く技術」は再読である。20年間無敗、伝説の雀鬼と言われた桜井氏の最新刊だが、このひとの人間観察には含蓄がある。人が持つ「癖」や身体の動き、立ち居振る舞いにその人がどういう人間であるか如実に表れるという。「この世の中に性格のない人がいないのと同様に、癖も誰にでもあるものなのだ。だったら、癖があることを認めてしまって、できるだけよい癖になるようにすればよい。」(27頁)と述べ、性格を直したいと本気で思うなら、性格を「癖」だと考えて出てきたときに意識すれば直しやすいのではないかと言う。

桜井氏は、麻雀を通じて人としての道を後進に指導する「雀鬼会」を主催している。多くの若者が道場生として在籍してるそうだが、この「雀鬼会」では牌の捨て方、切り方に重点を置いて練習している。「牌を捨てるという行為には、弱気、疑い、損得勘定など人間が持つ欲、いやらしい部分がすべて出てくる。だから、雀鬼会ではその捨て方、切り方が少しでも美しくなるよう、牌を切る練習ばかりしている。(中略)切り方を練習していると、だんだん麻雀に対して美意識というものが出てくる。動作を磨いていくことで徐々に思考にも美しさが出てくるのだ。」

最後の方にある「動作を磨いていくことで徐々に思考にも美しさが出てくる」という言葉は味わい深い。習慣が人を形作るということと同じではないか。立ち居振る舞いの美しさは単に見た目の美しさだけでなく、それが思考の美しさに通じるからなのだ。あらゆる芸事がまず型を身につけることから始まるのも意味のあることなのだと思う。

3は大村はまさんの言葉を、教え子の苅谷夏子氏が紹介していくというもの。60ほどの言葉が引用されているのだが、どれもこれも深い。教育に携わる人、教育の仕事を目指そうとする人にぜひとも味わってほしい言葉の数々だ。たとえば次のような言葉。

 子どもたちに、安易に、だれでもやれる、やればやれるといいたくない。やってもできないことがある---それも、かなりあることを、ひしと胸にして、やってもできない悲しみを越えて、なお、やってやって、やまない人にしたいと思う。(22頁)

 子どもを知るということ、子ども自身より深く知るということ、親をも越えて子どもを知るということ、これがまず教師として第一のことでしょう。子どもを愛すること、子どもを信頼することを第一に挙げる方もありますが、それも「知る」ということと共にあることと思います。(40頁)

どちらも教室で子どもたちに向き合ってきた大村さんの経験に裏付けられた言葉だ。教師論も奥が深い。

 子どもがかわいいのであれば、子どもをとにかく少しでもよくしていける、教師という職業人としての技術、専門職としての実力をもつことだ。子どもをほんとうにかわいがる、幸せにする方法は、そのほかにはないと思います。それ以外のことはみんな二次的なことだと思います。遊んでやるのもよいし、頭をなでてやるのもよいし、やさしいことばをかけるのも結構、しかしそれらはみな二次的なことです。……いちばん大事なことをちゃんとやっていながらでないと、教師自身の自己がこわれてしまうと思います。(191頁)

「教師という職業人としての技術、専門職としての実力をもつこと」というのは当たり前のように見えるが、そうではない。教えるということを通じて生徒との信頼関係を築いていくということが、実は一番難しい。

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コメント

こんばんは、リンクを貼っていただき有り難うございました。
3.の本は以前私も読みました。
大村はまさん関連の本は胸が熱くなるので、なるべく読むように
しております。

先生のブログはインテリジェンスに溢れていて、読んでいて非常
に読み応えがあります。
その中で私のブログを紹介していただき、非常に光栄です。
また勉強させていただきます。

(学び舎主人)
コメントありがとうございます。勝手にリンクを張らせていただきましたが、とよ爺先生にコメントいただけるとは光栄です。
先生のブログで書かれていた「居酒屋ブログ」という考え方が面白く、ときどき立ち寄らせていただければと思っております。

大村はまさんの教師としての姿というのはすごいなあ、と素朴に思います。これから教員を目指す人たちにとっては高すぎる目標になるのかもしれませんが、志だけでも高く持ってほしい気がします。

投稿: とよ爺 | 2009年6月22日 (月) 00時28分

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