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2008年12月17日 (水)

江戸的スローライフのすすめ・その6

このところ連日のように古今亭志ん朝さんの落語を聴いています。

音源は独演会で収録されたものですが、どの噺を聞いても粒がそろっているのはさすがです。父親である五代目古今亭志ん生さんは噺の出来にムラがあって、いい意味で大雑把です。きちんとしていない、大らかな、とぼけた味がその魅力となっています。それに対し息子の志ん朝さんは、きっちりした噺で、八代目桂文楽さんのような完璧さがみごとです。独演会だからというわけではないと思いますが、どの噺を聴いてもはずれがありません。

その志ん朝さんの演目の中で、悪知恵のはたらく子どもと煙に巻かれる父親というパターンの噺が二つありました。「雛鍔」と「真田小僧」という噺です。どちらも主役は金坊というこまっしゃくれたガキ(いや失礼、子ども)とその父親である職人。

まずは「雛鍔」の方から。植木職人である父親は、あるお屋敷で仕事をしているとき、遊びの途中で穴あき銭を見つけたお屋敷のお坊ちゃんが不思議そうに、「爺、これは何じゃ?」とお付きの老爺に尋ねるのを耳にします。これを持ってお屋敷の外に行けば物が買えます、と若様に教えるわけにもいかない老爺は「若様は何だと思われますか」と逃げをうちます。首をかしげていた若様は、ハタと気が付いて「真ん中に四角い穴が開いていて文字が書いてある。お雛様の刀の鍔かなあ」と答えます。老爺はそうです、お雛様の刀の鍔でございますと受け、若様は納得して興味を無くしたのかその穴あき銭を放り出して遊びに戻ります。

このやりとりを木の上で聞いていた職人は、すっかり感心してしまいます。えれえもんだ、お銭(あし)を見たことがねえんだ。うちのガキとは大違いだ。若様の育ちの良さにぼうっとなってしまった職人はぼんやりして長屋に戻り、おカミさんにその話をします。あちらはお屋敷のお坊ちゃんでうちの金坊とは比べらんないよ、こう言うおカミさんに、そういえばうちのガキはどこへ行った?さっきからお前さんの後ろに立ってるよ。すると、後ろに立っていた金坊が「お銭(あし)おくれよ」。

おカミさんからお銭(あし)をせしめた金坊は外に遊びに行き、入れ替わりに植木の仕事で出入りしているお店(たな)のご隠居が入ってきます。行き違いがあって腹を立てている職人のところへやって来たご隠居は、あれこれ話をして無事に職人の誤解が解けホッとします。そこへ外から帰ってきた金坊が顔を見せます。客に菓子を出す頃合いを見計らって帰ってきやがんだからな、まったく。父親が嫌な顔をするのもおかまいなく、金坊は穴あき銭を見せなあがら「おとっつぁん、こんなもん拾ったんだけど何だろうなこれ?お雛様の刀の鍔かなあ?」ととぼけます。うるせえなあ、あっちへ行ってろ。ねえ、おとっつぁん、お雛様の刀の鍔かなあ?と金坊はねばります。

これを聞いていたご隠居は感心します。「へえぇ、お前さんの子はお銭(あし)を知らないのかい?」いやあ、カカアがお屋敷の奉公していたことがありやして、子どもは鷹揚に育てなくちゃいけないってゼニをやらねえもんですから知らねえんですよ。ははぁ、たいしたもんだ。すっかり感心したご隠居は、今度来るときには手習いの道具を一式持ってきてやるからね、と金坊に優しい言葉をかけます。父親がご隠居に礼を言い、金坊にはゼニを指して「そんな不浄なものは早くうっちゃってしまえ」と言うと、すかさず金坊は「やだーい、これで焼き芋買って食うんだい」。

金坊の方が一枚上手で、父親とご隠居がみごとに手玉に取られてしまうという一席です。この噺に出てくる職人の父親とご隠居は、どちらもゼニにとらわれないあり方に素朴に感心し感激さえしてしまいますが、金坊やおカミさんはリアリストです。何を寝ぼけたこと言ってんだよと頭から冷水を浴びせかける役回りであり、いつの世も変わらないなあとしみじみしてしまいます。父親やご隠居が理想やら何やらにポーッとなっているときでも、カミさんや子どもは現実的でそんなことよりお銭(あし)を稼いで来ておくれ、またはお銭(あし)おくれよと花より団子の醒めた要求を出してきます。もちろんこの父親やご隠居の背景には宵越しの銭は持たないという江戸っ子の金銭美学があるわけで、銭をため込むことを高く評価しない価値観が大きく影響しているのだと思います。しかしそれはあくまでも男たちの話であって、おカミさんや子どもの世界にまで及んでいるわけではないということがこの話などからもうかがえます。

このまま「真田小僧」の話まで続けると長くなりますので、今日はこの辺まで。

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コメント

おじゃまします。

うちにもリアリストが、若干名います。
まさしく、何を寝ぼけたこと言ってんだよと、私に頭から冷水を浴びせかける役回りとなっています。(笑

江戸の時代も同じだったと知り、やはり耐えねばならぬ・・・と、しみじみしております。

Mr塾長もハードな日々が始まりますね。風邪などひかぬようご活躍ください。

(学び舎主人)
ご配慮ありがとうございます。
耐え難きを耐え、忍び難きを忍ばないといけない立場が一家のご亭主ということなのでしょう。
ちびやまめさんもご自愛下さい。

投稿: ちびやまめ | 2008年12月18日 (木) 19時56分

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