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2008年9月29日 (月)

古典の底力・その3

今年は源氏物語の千年紀だそうで、あちらこちらで源氏物語の特集を見かけます。紫式部日記の寛弘五年(1008)に「若紫」や「源氏」などの記述があることから、この年を基準に今年を千年紀としているようです。

さて、楽屋内をさらすようで恥ずかしいのですが、国文科に行きながらワタクシ源氏物語の原文を全巻通して読んだことがありません。自宅に岩波書店の新日本古典大系版で五巻の「源氏物語」はありますが、目を通しているのは古典の指導で必要になる部分のみです。たとえば冒頭の「桐壺」であったり、「若紫」であったり、教科書に載っていて問題を作らねばとなった巻はお世話になっておりますが、その他はよく分かりません。

長年、源氏物語を読んでいないということがのどに刺さった魚の骨のようにチクチクと気になり、今年こそ読まねばと思うものの、挫折の連続となっております。どうも今年も気持ちだけはあったのに例年のごとく過ぎてしまいそうです。それなら、せめて現代語訳でもと思い、谷崎潤一郎訳の源氏物語を手にしてみたものの、これまた5巻ある文庫のうち2巻目で挫折したまま。じゃあ、英訳ならどうだ、とサイデンステッカー訳の"The Tale of Genji"も遥か昔に入手いたしました。が、やはり「積ん読」状態。ああ、いつまで経っても読み切れない源氏物語。瀬戸内寂聴尼の現代語訳がベストセラーとなったものだそうですので、かすかに期待はあるのですが…。お前自身の意欲が一番問題じゃあないのか、ハイ、その通りです。全く一言もございません。第一ねえ、日ごろ生徒に何て言ってるんだい、お前さん。コツコツと毎日少しずつ続けなさいとうるさく言ってるのは一体誰だい?いけませんよ、そんなことじゃ。と、小言の多い大家さんから叱られている店子のようなワタクシです。

ということで、源氏物語についてはおこがましくて何も語れませんが、作者紫式部に関連して周辺的事実を一つだけ書いてみようと思います。

紫式部の夫が藤原宣孝だということはご存じの方もあるかと思います。この宣孝との間に生まれた賢子という女性がいます。岩波の新日本古典大系版「後拾遺和歌集」の人名索引によると、「藤原兼隆に嫁し後の後冷泉天皇の乳母となる。のちに大宰大弐高階成章と結婚し、天皇即位に際し従三位典侍に至る。」大宰大弐の高階成章と結婚し、従三位となったことから「大弐三位」と呼ばれていますが、他に藤三位、越後弁、越後弁乳母などとも呼ばれているようです。

つまり紫式部の娘が後冷泉帝の乳母をしていたということです。後冷泉帝の頃といえば摂政関白は藤原頼通ですが、この頼通が賀陽親王邸を自邸として拡張した高陽院(かやのいん、賀陽院とも)で、歌合がしばしば開催されます。大弐三位の賢子もさまざまな歌合に歌人として登場します。

後冷泉帝期は一条帝期に次ぐ王朝文学の黄金期で、この賢子をはじめ、多くの歌人が活躍しています。とはいうものの、母親の紫式部の一条帝期には枕草子の清少納言や、和泉式部、赤染衛門など著名な女流文学者がそろっているのに比べ、後冷泉帝期の歌人たちは一般的ではないと思います。具体的には「後拾遺集」に入集歌の多い、相模や小弁といった女流歌人、能因、藤原頼宗、藤原範永などです。能因法師の「都をば霞とともに…」の歌は問題集などにも登場しますが、他はなじみがないのではないでしょうか。

さらにもう一つ。この紫式部の娘、賢子さんの夫となった高階成章の「またいとこ」にあたるのが、康平五年に陸奥守として下向した高階経重です。国府の官人が前司源頼義の指示に従うため、下向したもののすぐに帰洛したと「陸奥話記」には出ています。実は、陸奥話記の時代を調べていて、当時の公卿のほとんどが藤原氏か源氏である中、一人だけ高階成章が入っていることがなぜなのか不思議でした。妻が後冷泉帝の乳母であればなるほどと思いますし、康平五年の陸奥守に高階経重が選ばれた経緯もなんとなく見えてきます。

この賢子さん後冷泉帝には無理が言えたらしく、天喜四年に開かれた皇后宮寛子春秋歌合で乳母の大弐三位が自分の歌の代作として後冷泉帝の御製を急に申し請い、歌合では良し悪しを述べるまでもなく左方の勝ちとなったというエピソードもあるようです。まあ、乳母ですからねえ。後冷泉帝も断りきれなかったのでしょう。

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コメント

小林先生の古典文学に関する私見や解説は、いつもうなりながら拝見しています。源氏物語は昨年私立高校の国語科の非常勤をやった時に、ドサクサ紛れに源氏物語の漫画を読み、アウトラインをおさらいした輩なので、何も言えませんが、奥が深いということだけはよ~く理解できました。
それにしても、平安人の恋愛の感性は凄い!

(学び舎主人)
コメントをお寄せいただき、ありがとうございます。
源氏物語が千年紀だと聞いて以前から書きたかったのですが、どうも読んでいない後ろめたさがあって控えておりました。むかし、高校の古文の先生が40過ぎるまでは源氏物語の良さが分からなかったと授業で話していたのを思い出します。来年こそ読むぞぉ、と三日坊主に終わりそうな宣言でもしておかないとホントに読めないかもしれません。

投稿: かねごん | 2008年9月30日 (火) 22時18分

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