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2008年8月29日 (金)

江戸的スローライフのすすめ・その5

五代目柳家小さんの「長屋の花見」は、大家さんから呼び出しを受けた長屋の連中が店賃(たなちん)の催促だろうかと雁首揃えて相談するところから始まります。

何度聞いても笑ってしまいますが、店賃を納めたかという問いに「一つ納めてあるだけに面目ねえ」「で、いつ納めたんだい?」「十八年前に」というやりとりや、「おじさん、おじさんはどうなってんだ、店賃は?」「ああ、一つ納めてある」「十八年前じゃあねえのか?」「なに、親父の代だ」という笑いを重ね、「おう、おめえは?」「店賃って何だい?」「店賃知らねえやつがいたよ、あのなあ大家さんとこにもってくお金だよ」「ええ?」「大家さんとこのお金」「まだもらってない」とダメ押しをします。

小さんの弟子だった立川談志の「黄金の大黒」を聞いていると、ほぼ同じやりとりから噺が始まります。談志師匠も小さん師匠からしっかり稽古してもらったんだろうな、となんだかしみじみしてしまいます。立川談志の若いころの「ひとり会」の録音を聞くと、師匠の小さんのことをボロクソに言っていたりもしますが、自分の師匠であるがゆえにこれくらい言っても大丈夫だろうという安心感のようなものがその裏側に感じられます。

で、この立川談志の弟子が立川志の輔となるわけですが、はて志の輔落語に長屋物ってあったっけ?長屋の風景は出てくるような気はするけれども、「長屋の花見」や「黄金の大黒」のような長屋噺はやっていないんじゃないだろうか、と気になりました。

確かに長屋物はないような気がしますが、ではなぜ?と考えて、思い出したのが「メルシーひな祭り」。あれは、みたま町の町内会がフランス大使の夫人と娘にひな壇飾りをなんとか見せてやろうと奮闘する噺で、長屋噺ではありませんが、あの町内会のメンバー同士で交わされるやりとりは、どう考えても長屋の連中が店賃どうしようかと相談している光景に重なってきます。小さん…談志…志の輔と続く落語のDNAのようなものが一瞬感じられて、実に楽しいです。

落語って伝統話芸なんだなあと改めて思います。師匠から弟子へと稽古を通じてだったり、場合によっては高座の袖で直接聞いて語り継がれてきたものが今ある落語なのでしょう。こういう伝承の仕方というのは、効率性とは無縁の世界なんだろうなとも思います。何度も何度も同じ噺を稽古し、高座にかけ、また稽古をくり返し、だんだんその噺家のもちネタになっていく。時間のかかる伝わり方です。しかし、それゆえ同じ噺家でも若い頃と年を取ってからでは演じ方が微妙に違ったりするのでしょうし、師匠と弟子でも違いは出てきますし、二つと同じものがないパフォーマンスはジャズの演奏にも似ています。

そういえば、九代目林家正蔵(もとのこぶ平さん)をはじめ、落語家でジャズファンという人もいたりしてこの二つのジャンルは相性がいいのかもしれません。山下洋輔トリオのドラマーが小山彰太だったころ、ホテルに戻ってから小山彰太の落語(といってもジャズ的に編集されたシュールな前衛落語ですが)に一同腹をよじってのたうちまわったという話を山下洋輔のエッセイで読んだ記憶があります。「それからとんとんとんと八五郎出世をいたします」がキーフレイズになって、まったく別の落語の話がごちゃ混ぜになっていく様は山下洋輔トリオの演奏そのままのような様相だったようです。

話を戻しますが、立川志の輔さんにぜひやってもらいたいネタがあります。それは「大工調べ」です。師匠の談志も演じていますが、棟梁の政五郎が因業な大家に向かって威勢よく啖呵をきる場面は何度聞いてもスカッとする噺です。この場面の政五郎に関しては五代目古今亭志ん生よりも立川談志の若い頃の方がいいのではないかと思うくらいですが、このネタを志の輔落語で聞きたいなあと、心底思います。いつか取り上げてくれることを期待します。それとももう既に高座にかけているのでしょうか?

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コメント

「長屋の花見」の雁首揃えての相談ばなし。思わず吹き出してしまいました。
「店賃って何だい?」に座布団5枚です。

私もそんなことにならぬよう稼がねば・・・なんて思うこの頃です。

(学び舎主人)
コメントありがとうございます。ブログの管理をサボっておりましたので、公開が遅くなりました。
私も「店賃って何だい?」にならないよう、仕事に精を出さねばなりません。

柳家小さん師匠の「長屋の花見」は、ホントにとぼけたノンビリした雰囲気があって、花見頃のぼうっとした季節とよく合っているように思います。機会があれば、御一聴を。

投稿: ちびやまめ | 2008年8月31日 (日) 20時24分

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