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2008年8月15日 (金)

お盆休みの本棚から:筒井康隆『パプリカ』

お盆休みも今日まで。オリンピックも高校野球も家族は熱心に観ていますが、私は少々食傷気味で、他の人が熱狂しているときは別のことに目を向けるというあまのじゃく気質が顔を出しています。

昨日14日は、午後から夜までほとんど筒井康隆の『パプリカ』(中公文庫)を読むことに時間を費やしてしまいました。というか読み出したら止められなくなって一気に読んでしまった、というのが正直なところです。

アニメ化されDVDにもなっているようですからそちらをご覧になった方も多いかもしれません。文庫カバーの裏表紙面に載っている概要を引用すると

「精神医学研究所に勤める千葉敦子のもうひとつの顔は<夢探偵>パプリカ。患者の夢を共時体験し、その無意識へ感情移入することで治療をおこなうというものだ。巨漢の天才・時田浩作と共同で画期的サイコセラピー機器<DCミニ>を開発するが、ノーベル賞候補と目されたことで研究所内には深刻な確執が生じた。(中略)現実と夢が交錯する重層的空間を構築して、人間心理の深奥に迫る禁断の長編小説。」

となっております。「禁断の長編小説」は、ちと大げさな気もしますが、刊行されたのが1993年ですから15年も前の作品だったのですね。文庫が1997年初版で、たぶん文庫化されてすぐくらいに買ったのでしょうからもう11年前になるわけですが、全く読んでいなかったことにハタと気づきました。いや、一度読んでいながらすっかり内容を忘れたのか、どうもその辺は自信がありません。ともかくストーリーは初めて接するものという感じを受けました。

実は何を隠そう、三十数年来の筒井ファンであります。この数年は熱心に読んでいなかったものの刊行されている作品の大半は読んでおります。最近開設された「笑犬楼大通り 偽文士日碌」という公式ブログも欠かさず更新をチェックしております。したがって筒井康隆的世界の表も裏もメビウスの輪のように行き来できるほど、よく慣れ親しんでおります。この『パプリカ』もよく知っている筒井ワールドの要素にあふれています。

それにしても10年以上も「積ん読」状態だったとはもったいないことをしました。もっと早く読んでおくべきでした。読み終えてから筒井康隆の他の作品が急に読みたくなりました。夢と現実を行ったり来たりするという設定は、前にもあったなあ。あれはなんという作品だったっけ?「脱走と追跡の産婆」じゃなくて「脱走と追跡のサンバ」だったか。いやいや違う。「夢の木坂分岐点」とも違うなあ。夢の分析をしている精神分析医のところに女性患者の夢に出てきたライオンが現れるという話はどの短編でしたっけ?それから「DCミニ」というサイコセラピー機器が出てきてからの話は「だばだば杉」の話に似たような部分があったような気がするが。パプリカのキュートさは七瀬のキュートさとは少し違うけれど、どこかで出会ったことがあるような気がするしなあ…、と懐かしさで一杯です。

実験的ではあるのですが、実験性はあまり全面に出さず、一気に読ませてしまう面白さは筒井康隆ならではの世界です。比較的最近の『銀齢の果て』や少し前の『敵』で、老齢に達した境地を反映したのかと思わせて実はそれも筒井康隆の策略なのだろうと思ってしまうのは、筒井ファンの悪い癖ですが、いずれにしてもこの『パプリカ』でも仕掛けの多い、何度でも楽しめる世界が広がっています。

裁判員制度が始まると聞いて『12人の浮かれる男』を思い浮かべたアナタ、体調が思わしくないと『薬菜飯店』に行ってみたいなあと思うアナタ、もし私のように読んだつもりで『パプリカ』未読でしたら、今すぐ手に入れてお読み下さい。期待している以上の満足が得られること請け合います。

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コメント

ご無沙汰しておりました。先日は忙しいところ陸奥話記の配信ありがとうございます。
昨日ようやく夏期講習の全日程が終わり、今日はこの雨の中、中学校の親子レクに行ってきました。
実は何を隠そう私も筒井康隆ファンでございます。一人の作家の全作品を読んだのは、村上春樹と筒井康隆だけですが、大学時代は筒井文学のファンキーさに取り付かれ、毒気のある文体にはまっておりました。
知識人としての深みを、自らこき下ろし、ブラックにしてしまう彼独特の世界は、小林先生言うようにまさしく「筒井ワールド」であり、他に追従を許さない鬼才であると思います。
「笑犬楼大通り 偽文士日碌」を拝見いたしましたが、実に時代的で面白かったです。久しぶりに私も「筒井ワールド」を堪能してみたくなりました。

(学び舎主人)
いやあ、金田先生が筒井ファンとは知りませんでした。考えてみると、村上春樹の話はよく出ましたが、筒井康隆の話はしたことがありませんでしたね。あたらな一面の発見でうれしいです。これもブログのおかげです。

投稿: かねごん | 2008年8月24日 (日) 16時52分

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