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2008年1月20日 (日)

詩の季節

現代詩を読むのが好きです。

この頃はあまり読んでいません。それでも気になる詩人の詩や詩集が出ていると、目が行ってしまいます。

初めて現代詩に触れたのは、高校二年の頃です。学校の図書館にあった『詩の本』Ⅰ~Ⅲ(筑摩書房)で、監修は西脇順三郎氏と金子光晴氏のお二人です。今考えると何と豪華な顔ぶれでしょう。執筆陣もすごいです。現代詩の代表的詩人たちが書いた詩論が集められ、名前を見ていくだけでもため息が出ます。

しかし当時はその中のだれ一人として名前を知らず、ましてやその詩人たちの書いた詩など読んだこともありませんでした。ただ、幾つか気になる詩論があり、それを書いた詩人たちの詩集から読み始めたように思います。

一番最初に買った詩集は、思潮社の現代詩文庫に入っていた『那珂太郎詩集』です。那珂さんの詩を読んだときの衝撃はいまだに忘れません。言葉の意味が解体され、純粋な音に還元されていく詩は、強烈な印象を残しました。しかも、その音の重なり合い響き合うようすは喩えようもなく気持ちよく、言葉が生き物のように息づいていました。

予備校に通っていた浪人時代は、角川文庫版の『谷川俊太郎詩集』をくり返し読んでいました。第一詩集「二十億光年の孤独」に収められている「かなしみ」という詩は短いものですが、愛された小さな犬にという副題の付いた「ネロ」という詩とともに、何ものかが決定的に失われてしまったんだという喪失感を自分の中に引き起こしました。今思えば、それは漠然とした喪失感でしかなく、本当の喪失感とはどういうものなのかまだ知らない頃の話です。

大学に入ってからは、思潮社の現代詩文庫のお世話になりました。『吉野弘詩集』『黒田三郎詩集』『清岡卓行詩集』そして『田村隆一詩集』をよく読みました。中でも吉野弘さんと田村隆一さんの二人は、私にとってそれぞれ特別な意味を持つ詩人です。

吉野弘さんは山形県酒田市出身の詩人です。初めて読んだ吉野さんの詩は、先に挙げた『詩の本』に引用されていた「I was born」という詩です。この詩に描かれた父と息子の情景は、息子の問いとともに心に残っています。第一詩集「消息」の中の一編なのですが、この第一詩集の詩はどれも、美しい言葉の響きと問いかけに満ちています。大袈裟な言い方をすれば、私の中の倫理観を形作っている一部はまちがいなく吉野弘さんの詩編だと思います。吉野さんの詩は静かな詩ですが、「雪の日に」で描かれている雪のようにあとからあとから問いを投げかけてきます。「冬の海」という詩も、何かのときにふと浮かんでくる詩です。

一度だけ吉野弘さんを、お見かけしたことがあります。私の住む北上市には日本現代詩歌文学館があり、詩歌文学館賞を毎年発表しています。平成2年の第5回詩歌文学館賞で、詩の部門の受賞者が吉野弘さんでした。授賞式に吉野さんが来られることを耳にし、詩歌文学館の授賞会場へ足を運びました。賞を受け、壇上から下りた吉野さんはまっすぐ私の座っている席の2列前にきて座り、出版社の方かどなたかと談笑なさっていました。あなたの詩のファンです、と声を掛けたかったのですが結局できませんでした。

田村隆一さんの世界は、吉野さんの詩とはまったく違うものですが、その詩が喚起するイメージに強く引き付けられました。詩集「言葉のない世界」に収められている、「言葉なんかおぼえるんじゃなかった」で始まる「帰途」という詩に魅せられた方が田村隆一ファンには多いかと思います。私もその一人です。この詩に込められた詩人の覚悟の美しさは、今の時代に読んでもまったく古くさくありません。それどころか、田村隆一という詩人のダンディズム、詩におけるダンディズムに限定してもいいのですが、それを強く感じさせます。ストレートで飲むウィスキーのように、ひりひりと舌に焼けつくような言葉の連なりは、決して飲み込みやすいものではありません。が、ひとたびそれを味わってしまうと、水で薄めたような表現には手が伸びなくなります。

茨木のり子さんの詩も大好きです。最近になって茨木さんの詩集をいくつか読みましたが、しゃんと背筋の伸びたような詩が、とてもすがすがしく感じられました。

詩に出会うのは、やはり若い頃なのかもしれません。もちろん人生の浮き沈みを経験した大人になってからでもいいのでしょうが、不安と期待の入り交じった若い頃に読んだ詩は深く心に残るような気がします。詩の季節というものかもしれません。

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