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2008年1月15日 (火)

江戸的スローライフのすすめ・その3

落語を聞いていて、すごいなあと思うのは、問題解決の仕方です。

たとえば、「金明竹」という噺があります。五代目古今亭志ん生さんが演じたものを聞いたのですが、あるお店の旦那が、小僧として親戚から預かっている、ぼーっとした与太郎に向かって、こういうときはこれこれの応対をするもんだと忠告をしていきます。最初は傘を借りたいと言ってきた通りすがりの人間に、どうやって断りを入れるかです。

「これだけの店でもって、貸し傘が無いなんてことは言えないからな。もしそういうことがあったらば、えー、手前どもにも貸し傘は何本もございましたけれど、この間からの降り続きのために骨も紙もバラバラになってしまいました。束ねて物置へ放り上げてあります、とこう言って断りなよ。いいかい、わかったね。」

なるほどと思った与太郎ですが、次に店に来た人は傘ではなく、ネズミを捕らせるために猫を貸してくれと言います。与太郎は「うちにも貸し猫はありましたが、こないだからの降り続きで骨も皮もバラバラで、束ねて物置へ放り上げてあります。」と断ります。店先に誰か訪ねてきたのかい、と出てきた旦那に尋ねられ、「貸し猫」の話をすると旦那はこう教えます。

「そういう場合にはね、断り方が違うんだよ。ええ、あたくしどもにも一匹おりますと、いいか?おりますが、うちじゃあ食べさせませんけれども、畜生のあさましさに、どっかでエビのしっぽの悪いのを食べたんでしょう、腹を下しまして、マタタビなめさして寝かしてございますから、連れってても役には立ちません。こう言って断りな。」

そう言われた与太郎が店番をしていると、よそのお店から使いが来て、うちの旦那にちょいとわからないことがございますんで、おたくの大将に来ていただきたいんですが、と言います。で、与太郎は「うちにも旦那は一匹おりますが、うちじゃあ食べさせませんが、どっかでエビのしっぽの悪いのを食べたんでしょう、腹を下しまして、マタタビなめさして寝かしてますから、連れてっても役には立ちません。粗相をしますよ。へへへ。」と断ります。そうですかあ、じゃあお大事にと使いが帰ったところへ、また奥から旦那が出てきます。与太郎がこういうわけでと言うと、旦那はカンカンになって怒るという短いお噺です。

もう一つ、同じ志ん生さんの噺で「風呂敷」というのがあります。こういう噺です。

やきもち焼きの亭主をもつおかみさんが長屋に住んでおります。あるとき仲間の寄合で亭主が留守の時に、近所の若い衆が、「兄貴は、いるかい。」と尋ねてきます。留守だけどあがってお茶でも飲んでいきな、と世間話をしていると雨が降って来ます。そこへ遅くなると言って出ていった亭主がへべれけになって帰ってきます。誤解されて若い衆が殴られでもしたんじゃかわいそうだというので、おかみさんはとっさに若い衆を押入に隠します。酔っぱらって帰ってきたので、すぐ横になって寝てしまうだろうから、それから出してやろうと考えたわけです。ところが、帰ってきた亭主は押入の前にどっかと座り込んで動かない。困ってしまったおかみさんは、亭主の兄さんのところに相談に駆け込みます。相談を受けた「兄さん」は風呂敷を一枚もって長屋へやってきます。

さて、どうなったと思います?

「兄さん」は長屋へ来ると、押入の前に腰を下ろしている亭主に「どうしたんだい。」と話しかけ、おかみさんの態度に怒っている亭主の話を聞いてやります。ふむふむと聞いていた「兄さん」に、亭主が「おめえ、どこへ行ったんだ?」と尋ねます。すると「兄さん」は「ちょいと脇にゴタゴタがあって、口利きをしてきた。」と答えます。「どんなゴタゴタだ?」と亭主が尋ねると、「兄さん」はおもむろに語りだします。

やきもち焼きの男がいるんだが、その男が寄合に出かけている間に、尋ねてきた近所の若い衆とおかみさんが茶飲み話をしていると雨が降ってきたんで表を閉めた。そこへ、そのおやじがへべれけになって帰ってきたんで、おかみさんは勘ぐられるのがいやだから若い衆を押入に隠しちまった。亭主を寝かしちゃってから、出そうと思ったんだが、そいつが寝ねえのよ。押入の前にあぐらかいて動かねえんだよ。おめえみてえにそうやって押入の前にあぐらかいてやんだよ。

それから、おれは仕方がないから、この風呂敷をパーンと広げてなと言いながら、「兄さん」は亭主に風呂敷をかぶせて見えなくし、「こうやってな、押入を開けてみると、その野郎がいるんだよ。」という話になります。うまいもんです。ご丁寧に「兄さん」は、「履き物も忘れんじゃねえぞ、ってえと忘れねえようだな、その野郎も。」と、細かい詰めも忘れません。無事若い衆が出てしまうと風呂敷をとって、「というわけよ。」「なあんだ。」となります。

どちらの噺にも共通しているのは、角が立たない問題処理の方法だと思います。あいまいな解決法で、いかにも日本的だと言えるのかもしれませんが、ギスギスした言葉のやり取りや人間関係がつくり出すストレス社会に較べて、なんと洗練され、ゆとりのある対応でしょう。お互い気持ちよく暮らしてえもんじゃねえか、という声が聞こえてきそうです。

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